「AIを使っている」だけでは足りない|生成AIを使いこなす企業の共通点
「AIを導入しました」ということ自体が価値だった時期は、そろそろ終わりに近づいています。
これは、AIに懐疑的な人の意見ではありません。Googleのマーケティング担当バイスプレジデントが、2026年に公開された同社の公式レポートの冒頭で、はっきりとこう書いています。AIを使っているというだけでは、もう誰も褒めてくれない、と。
では、これから価値になるのは何か。Googleが世界中の実務家20名以上に取材してたどり着いた答えは、非常にシンプルでした。AIに的確な指示を出せる人、そしてAIが出してきた無数の案から、正解を選べる人です。
この記事では、Googleが公開した2つの一次情報をもとに、地方の中小企業がAIとどう向き合えばいいのかを整理します。専門的なツールの話ではなく、考え方の話です。
Googleが出した結論:「AIを使っている」はもう強みではない
まず押さえておきたいのは、AI活用のフェーズが確実に変わったという事実です。
Google幹部が語った、映画カメラの比喩
Googleのマーケティング責任者Josh Spanier氏は、いまのAIの状況を、映画の黎明期にたとえています。
映画用カメラが発明された当初、監督たちがやっていたのは、固定した舞台にカメラを向けることでした。演劇をそのまま記録していただけです。クレーンショット、クローズアップ、ジャンプカットといった「映画ならではの表現」が生まれるまでには、何年もかかりました。
AIは、まだその「舞台を撮っているだけ」の段階にいる——というのが彼の見立てです。道具は手に入った。しかし、その道具でしかできない表現は、これから生まれる。
もうひとつ、スマートフォンのカメラの例も挙げられています。レンズとセンサーが全員のポケットに入ったことが、後にInstagramやUberを生みました。道具が行き渡ったあとに、誰も想像していなかった使い方が生まれる。AIも同じ段階に来ている、という指摘です。
価値の在りかは「使うこと」から「指示すること」へ
Google DeepMindでシニアリサーチディレクターを務めるDouglas Eck氏は、同じ変化を別の角度から語っています。
画像生成AIが登場した初期は、ほとんど制御ができませんでした。適当な数値を入れて、それらしいものが出てくることを祈るだけ。そこに言葉による指示(プロンプト)が加わり、いま本格的な「制御」の段階に入りつつある、と彼は言います。
そのうえでの一言が印象的でした。
制作者にとっては、画質や解像度や光の美しさよりも、制御できることのほうが重要だ。
ボタンを押して結果を祈ることと、狙った通りに仕上げること。この2つのあいだには、決定的な差があります。そしてこの差が、これからのAI活用の成果を分けます。
AIは、あなたにセンスを与えない

AIは能力を底上げしてくれる道具ですが、判断力そのものは肩代わりしてくれません。ここを取り違えると、時間もお金も消えていきます。
「センスとは、何を捨てるかを知っていること」
レポートの中で、もっとも鋭い言葉だと感じたのが、Creative Theory Agencyのクリエイティブ責任者Gary Williams Jr氏の指摘です。
彼はこう言います。AIはあなたにセンスを与えない。あなたにセンスがあるかないかを、露わにするだけだと。
そして、センスとは何かをこう定義しています。
センスとは、何を捨てるかを知っていること。
なぜなら、頼めばAIは全部くれるからです。彼はドラムにたとえます。誰にでもドラムセットを渡すことはできる。けれど品よく叩く術を知らなければ、出てくるのはひどい音だけだ、と。
AIは100案くれるが、どれを残すかは教えてくれない
同じ趣旨が、レポート全体で繰り返し語られていました。
AIは100通りの方向性を出せます。しかし、そのうちどれを世に出すべきかは教えてくれません。誰もが何でも作れるようになった時代に優位に立つのは、当たりを見抜ける人である——これがGoogleが20名以上の実務家から引き出した共通見解です。
自社サイトのトップページのコピーを、AIに20案出させたとします。20案並んだところで、選べなければ意味がありません。選ぶためには、自社が誰に何を届けたいのかを、自分の言葉で持っている必要があります。
「創造性の民主化」を誤解しないために
「AIで誰でもプロ並みに」という言葉をよく見かけます。しかしGoogle側の説明は、これとは少し違います。
民主化されたのはツールであって、創造性ではない
Eck氏は、この2つをはっきり分けて語っていました。
ツールへのアクセスは民主化したい。けれど創造性そのものは、難しいままでいい——彼はそう述べています。創造性とは、自分の頭とアイデアを使って、人に届けたい何かを磨き上げていく作業であり、本質的に簡単ではない。そして簡単にしようとすることこそが、いわゆる「AIスロップ」——中身のない量産コンテンツ——を生む原因だ、と。
創造性は、難しいままであるべきだ。
AI開発の最前線にいる人物が、こう言っているという事実は、重く受け止めていいと思います。
200年続く小さな渡し船が、映画になった話

では、民主化されたツールで何ができるのか。レポートの中に、地方の小規模事業者にとって示唆的な事例がありました。
R/GAのクリエイティブ責任者Tiffany Rolfe氏が題材に選んだのは、200年以上同じ一族が運航してきた、片道わずか5分の連絡船です。彼女は、1833年の創業者の写真や初代の手漕ぎボートの写真といった家族のアルバムを、AIで動く映像に変えました。さらに地図データを使い、海岸線が時代とともにどう変わってきたかまで再現しています。
レポートには、こう記されています。かつてなら、小さな事業者には到底手が届かない特殊効果の予算が必要だった仕事だ、と。
つまり、民主化の本質は「無限にコンテンツが作れること」ではありません。世界水準の表現が、大きな予算を持つ企業だけのものではなくなったことです。久留米や福岡で長く続いてきた事業にも、語るに値する物語は必ずあります。それを届ける手段のコストが、確実に下がってきています。
AIを使いこなせている企業の、たった一つの共通点
ここからは、より実務的な話です。
「自社が何者か」を言語化し終えているかどうか
制作会社Monksの共同創業者Wesley ter Haar氏は、多数のブランドのAI導入に関わってきた立場から、うまくいっている企業の共通点をひとつだけ挙げています。
自社のブランドが何者なのかを、地道に言語化し終えていること。
彼の会社では、この言語化した知識のかたまりを整備しています。中身は、デザインガイドライン、これまでの写真、広告、実績データ。そこに加えて、ブランドの「感じ」を人間の言葉で定義したものが入ります。これを渡した状態で指示を出すと、出てくるものが自社らしくなる、という仕組みです。
GMの失敗談 ― AIは、あなたの会社を知らない
反対に、うまくいかなかった話も正直に載っていました。
ゼネラルモーターズのCMOは、初期の苦戦をこう振り返っています。AIは自社のブランドを知らないため、狙い通りの画像にするまでに相当な手戻りが必要だった。現場では「これ、自分で写真を撮ったほうが早いのでは」という声まで出た、と。
世界的な自動車メーカーでも、こうなります。理由は単純で、AIはその会社が何を大切にしてきたかを知らないからです。
中小企業にとっての実務的な意味
大企業のような大がかりな仕組みは必要ありません。中小企業がやるべきことは、もっと素朴です。
- 自社の判断基準を文章にしておく:どんな言葉を使うか、使わないか。どんな写真を良しとするか。避けたい表現は何か
- 良い例と悪い例をセットで残す:過去の制作物のうち「これは自社らしい/らしくない」を並べておくだけでも、指示の精度が上がります
- 担当者の頭の中にしかない基準を、外に出す:これは属人化の解消にもつながります
この作業は地味ですが、AIを使う場面でも、外部のパートナーに依頼する場面でも、そのまま効いてきます。
すぐ試せる、AIへの指示のコツ
考え方の話が続いたので、明日から使える具体的な手法もひとつご紹介します。
「横から」プロンプトする
Google DeepMindが関わった短編映画の制作チームが公開していた手法です。
宇宙のシーンを作るとき、「ビッグバン」「宇宙」といった言葉で指示すると、AIが返してくるのは視覚的な平均値でした。要するに、どこかで見たことのある絵です。
そこでチームは、昔のSF映画が使っていた実写の特殊効果——煙、鏡、色のついた油——に立ち返り、顕微鏡や光や液体の具体的な描写でプロンプトを書きました。結果として生まれたのは、宇宙のショットなのに「宇宙」という単語をひとつも含まないプロンプトから出てきた映像でした。
チームはこれを、新しいアートディレクションだと表現しています。当たり前の絵を頼むのではなく、独創的な絵への迂回路を見つけること。
これは自社サイトの画像やSNS用のビジュアルでも、そのまま応用できます。「明るいオフィスの写真」ではなく、「朝の光が差し込む窓際、書類の端に落ちる影」と書く。指示の粒度を、被写体ではなく状況に寄せていくイメージです。
完成形を先に自分で描いておく
もうひとつ。AIに投げる前に、自分の頭の中でゴールを決めておくことです。
Google Creative Labの事例が示唆的でした。あるCMのプロトタイプで、権利の問題からキャラクターを差し替える必要が生じたとき、AIで即座に複数案を試せたため、判断基準はたったひとつになりました——どれがいちばん面白いか。
そして結果は、ベテランのクリエイティブディレクター陣の予想を裏切りました。正解は、一人のデザイナーが提案した案でした。担当者はこう振り返っています。全員が実際に目で見られたから、全員が納得できた、と。
興味深いのは、プロトタイプが創造のプロセスを閉じるのではなく、開いたことです。監督たちの反応は「あなたの頭の中がやっと分かった。ではこちらは演出に集中できる」というものでした。
AIで作った試作は、決定稿ではなく議論の出発点として使う。この使い方が、いまのところ最も成果につながっているようです。
最後の1マイルは、人間の仕事

レポートの中で、もっとも心に残った一節をご紹介して締めくくります。
観察はAIができる。意味づけは人間にしかできない
ユニリーバのグローバルCMO、Leandro Barreto氏が語っていた、南アフリカでの事例です。
親が、登校前の子どもの顔にワセリンを塗る。この習慣そのものは、データからでも観察できます。しかし、その儀式は愛情の代わりなのだという洞察は、本質的に人間のものです。
彼は、この最後の1マイルには詩があると表現しました。観察を、感情に翻訳する仕事。ここだけは機械には渡せない、と。
30年この業界にいて、私が変わらないと思っているのも、まさにこの部分です。ツールは変わります。検索の仕組みも変わります。けれど、目の前の会社が何を大切にしてきたのかを聞き取り、それを届く言葉に翻訳する仕事は、人間の側に残り続けます。
AI時代こそ、人間力。 Googleの公式レポートを読み込んで、この確信はむしろ強くなりました。
よくある質問(FAQ)
Q. 生成AIを使えば、Web制作やデザインの外注は不要になりますか?
不要にはなりませんが、頼み方は変わります。AIは制作のスピードとコストを大きく下げますが、「どれを選ぶか」「自社らしいとは何か」という判断は肩代わりしてくれません。Googleのレポートでも、AIは複数の方向性を出せてもどれを世に出すべきかは教えてくれない、と繰り返し指摘されています。制作を丸ごと任せる関係から、判断を一緒に磨く関係へ移っていくと考えるのが現実的です。
Q. 「AIはセンスを与えない」とは、具体的にどういう意味ですか?
AIは頼めば何でも出してくれるため、選ぶ力の有無がそのまま結果に表れる、という意味です。レポートの中では「センスとは何を捨てるかを知っていること」と定義されていました。20案出させても選べなければ成果にはつながらないため、自社が誰に何を届けたいかを言葉で持っておくことが前提になります。
Q. 中小企業がAI活用で最初にやるべきことは何ですか?
自社の判断基準を文章にしておくことです。どんな言葉を使い、どんな言葉を避けるか。どんな写真を良しとするか。過去の制作物で「自社らしい/らしくない」の例を並べておくだけでも十分に役立ちます。AIを使いこなせている企業の共通点は、自社が何者かを言語化し終えていることだと、Googleのレポートは指摘しています。
Q. AIに自社のブランドイメージを守らせることはできますか?
可能ですが、そのための材料をこちらが用意する必要があります。ゼネラルモーターズのCMOも、AIは自社のブランドを知らないため相当な手戻りが必要だったと振り返っています。ガイドライン、過去の制作物、そしてブランドの「感じ」を説明した文章。これらを渡した状態で指示を出すと、精度が大きく変わります。
Q. 「AIスロップ」とは何ですか?
AIで大量生産された、中身の薄いコンテンツを指す言葉です。Google DeepMindのDouglas Eck氏は、創造することを簡単にしようとすることこそがAIスロップを生む原因だと述べています。裏を返せば、手間をかけて磨いたコンテンツの価値は、むしろ相対的に上がっていくということでもあります。
ご相談ください
AIをどう業務に組み込むか。そして何より、自社の判断基準をどう言語化するか。この部分は、ツールを導入するだけでは解決しません。社内の方だけで進めようとすると、当たり前すぎて言葉にならない、ということが起こりがちです。
a.designでは、30年のWeb実務の視点から、この整理のお手伝いをしています。「うちの場合はどうすればいいのか」という段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。
参考・出典
- Think with Google「From prompting to directing: Google DeepMind on the future of creativity」(2026年7月15日公開)
- Think with Google「Frontier CMO: The Creativity Edition」(2026年)
