「AIで業務効率化」のその先へ――世界的研究者・甘利俊一先生の提言から考える、後継者・リーダーが持つべき「人間力」
AI導入を進める経営者・後継者にこそ見てほしい一本の講演
いま、多くの中小企業で「人手不足の解消」や「生産性向上」を目的に、生成AIやAIエージェントの導入・検討が進んでいます。特に次世代を担う後継者や経営幹部の皆さまにとって、AI活用は避けて通れない経営テーマの一つではないでしょうか。
日々のWebプロデュースや開発の現場でも、AIツールやエージェントの劇的な進化を肌で感じており、業務が劇的に効率化される場面を数多く目の当たりにしています。
そんな中、ぜひ経営を担う皆さまに共有したい動画があります。 現在のAI・ディープラーニングの基礎を築いた世界的な数理科学者、甘利俊一(あまり しゅんいち)東京大学名誉教授による京都賞記念講演「幸運なるわが人生」です。
甘利先生は、機械学習の根幹アルゴリズムである「確率的勾配降下法」の基礎を確立し、統計と現代幾何学を融合させた「情報幾何学(Information Geometry)」を世界で初めて創始された、文字通りのレジェンドです。
70年近い研究人生を振り返るその講演の中で、私が最も強く心を揺さぶられたのは、技術の最前線を切り拓いてきた世界的権威が語る「AIと人間社会の未来に対する警鐘」でした。
技術の目的を見失ったとき、何が起きるか
講演の中で甘利先生は、日本が世界のAI分野を牽引していた1980年代後半(バブル期・第二次ニューロブーム)の歴史にも触れられています。
欧米が研究資金を削減し「AIの冬の時代」に突入していた間も、日本では自由な学風の中で地道な基礎研究が育まれていました。その結果、再び世界でニューラルネットワークが脚光を浴びた際、日本は世界の最先端として注目されることとなったのです。
研究者たちはいつも、純粋な好奇心と「人類の幸福に役立てたい」という願いから技術を追求します。 しかし歴史を振り返ると、そうして生まれた高度な技術が、開発者の意図とは裏腹に軍事利用や覇権争い、あるいは単なるマネーゲームの道具として使われ、格差を広げてしまう悲しい現実が繰り返されてきました。
この構造は、企業経営にも通じるものがあります。 「利益を出すこと」「効率化すること」自体は企業存続のために不可欠です。しかし、「何のために効率化し、誰の幸福のために利益を出すのか」という理念が抜け落ちてしまうと、技術は人を疲弊させ、組織を分断する道具にもなり得てしまいます。
経営者が警戒すべき「人類の家畜化」と「思考の丸投げ」
甘利先生は、現在の便利すぎるAIに対して「人類の家畜化」という非常に強い言葉で警鐘を鳴らされています。
AIは指示を出せば、それらしい企画書を作り、流暢な文章を書き、瞬時に答えを出してくれます。甘利先生も「AIはどんどん活用すべきだ」と推奨されていますし、経営ツールとして使わない手はありません。
しかし、先生はこう問いかけます。
「AIは、人間から思考する楽しみ、思考する苦しみを奪ってしまうかもしれない」
自社の強みは何か、顧客にどう貢献できるか、どうすれば社員がやりがいを持てるか――。 経営も現場の仕事も、泥臭く悩み、試行錯誤し、壁を乗り越えるプロセス(思考の苦しみ)の中にこそ、独自の価値と達成感(思考の楽しみ)が生まれます。
もし、効率化ばかりを急ぐあまり「考えること」そのものをAIに丸投げしてしまったらどうなるでしょうか。 社員が自ら考えなくなり、組織全体の思考力や提案力が減退し、結果として他社との差別化ができない「AIに使われる組織」になってしまいます。
AIを導入するリーダーが本当に意識すべきは、「作業をAIに任せること」であって、「事業の本質を思考する苦しみと喜びを社員から奪わないこと」なのだと強く再認識させられます。
「全従業員の物心両面の幸福」のためのAI活用
京セラ創業者の稲盛和夫氏は、経営の目的を「全従業員の物心両面の幸福を追求すること」と説かれました。
中小企業がAIやDXを導入する真の価値は、人を減らすことや単なるコストカットではありません。 AIエージェントなどを活用して定型業務を圧縮し、生まれた「時間」と「余力」をどこに投資するか。
- 経営幹部が、自社の未来のビジョンや新たな挑戦をじっくり構想する時間
- 社員が顧客と深く向き合い、血の通った提案や対話を行う時間
- チームで意見をぶつけ合い、新しいアイデアを創出する時間
これらに時間を使うことこそが、社員のやりがい(心の幸福)と企業の収益力(物質的な幸福)の両立につながります。
「AI時代だからこそ、人間力。」 機械に任せられる部分は徹底して任せ、人間は人間にしかできない「共感・決断・創造・対話」にエネルギーを注ぐ。それこそが、中小企業がこれからの時代を勝ち抜き、選ばれ続けるための本質です。
「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」
講演の締めくくりに、甘利先生はフランスの詩人ルイ・アラゴンの詩を引用されました。
「教えるとは 共に希望を語ること、学ぶとは 誠実を胸に刻むこと」
知識やマニュアルの共有だけであれば、AIが最も得意とする領域です。 だからこそ、これからの社内教育や事業承継において経営者や幹部が担うべき役割は、単なる業務指示ではなく、「会社の未来への希望(ビジョン)を語ること」であり、「自らの仕事への誠実な行き様を行動で示すこと」ではないでしょうか。
そして甘利先生は、「人間は本来、働くこと、創ること、遊ぶことが大好きな生き物である」と語られます。
AIという強力な相棒を手に入れた今だからこそ、社員一人ひとりが「自ら考え、創り出し、働く喜び」を感じられる会社づくりを目指していきたいものです。
専門用語を経営の言葉に翻訳し、人と技術の間をつなぐ伴走者として、これからも志ある経営者・後継者の皆さまと共に、人間が主役となる明るい未来を創っていきたいと思います。
今回ご紹介した動画
- 動画タイトル:【京都賞記念講演】甘利 俊一「幸運なるわが人生」
- URL:https://youtu.be/ww5JNDBeTKw
- 所要時間:約30分
自社のDXやAI導入に「自社らしい魂」を込めたいと考えている経営層・リーダーに、ぜひ一度ご覧いただきたい名講演です。講演後のインタビュー動画もとても素晴らしい内容です。
